粗雑な事実認定に基づく不当な判決である。到底納得できない。

 著書「帝国の慰安婦」を巡り、名誉毀損(きそん)罪に問われた韓国・世宗大の朴裕河教授に対し、ソウル高裁は無罪とした1審判決を破棄して、罰金刑を言い渡した。

 判決は、「強制連行という(日本の)国家暴力が朝鮮では行われなかった」「朝鮮人慰安婦が日本軍と同志的関係にあった」などの記述が虚偽だとした。元慰安婦の社会的評価を大きく低下させ、名誉毀損が成立すると断じた。

 検察側の主張に沿って、元慰安婦が「性奴隷として動員された」とも認定した。1996年に国連人権委員会で採択され、「性奴隷」の表現を使ったクマラスワミ報告が根拠とされた。

 報告には、客観性に乏しい記述が多く、吉田清治氏のでっち上げの証言も引用されている。問題のある資料に基づいて、裁判所が判断を出すのは不適切だろう。

 93年の河野官房長官談話が判決の論拠に使われていることも看過できない。

 河野談話は、慰安婦の募集や移送などが「総じて本人たちの意思に反して行われた」としたが、安倍政権による検証で、日韓両政府の政治的妥協の産物だったことが明らかにされている。

 韓国では、元慰安婦を支援する市民団体が強い影響力を持つ。裁判所は、市民団体が主導する反日世論に迎合した、と受けとられても仕方がなかろう。

 朴氏の著書は、慰安婦に関する韓国での一面的な見方に異を唱えた。一方で、慰安婦の過酷な境遇を作り出した「大日本帝国」の責任を追及している。バランスのとれた労作だ。

 1審判決が「学問的表現は保護しなくてはならない」として、記述内容の真偽の認定に踏み込まなかったのは合理的だった。高裁判決は、「学問の自由」への配慮を著しく欠く。

 日韓間の歴史に関する冷静な学術的議論が、韓国内でさらに萎(い)縮(しゅく)していくのは避けられまい。

 慰安婦問題は、2015年末の日韓合意で外交決着した。だが、文在寅政権は、合意を履行する意思を明確にしていない。韓国内では再交渉を求める声が根強い。今回の判決で、こうした動きが勢いづくことが懸念される。

 「帝国の慰安婦」は日本語版も出ている。有罪判決は、日本の韓国観にも影を落とす。韓国は基本的な価値観を共有する国と言えるのか。疑念が強まろう。